蟻正敏雅インタビュー

若者が集まる限界集落、多様な生き方を認め合う「上山マインド」とは

かつて日本最大級の棚田を有した限界集落を再生する若者たち

上山棚田

岡山県美作市上山集落。岡山駅から車で1時間ほどの集落に、かつては日本最大級の棚田がありました。

時代の変化とともに上山集落は人口の50%以上が65歳以上でやがて消滅の危機がある、いわゆる「限界集落」と呼ばれるようになりました。

しかしながら14年前から放棄された棚田の再生活動が若者たちにより行われ始め、今では若い移住者が増え「限界集落を突破した」と言われています。

上山集落の魅力とは

蟻正敏雅(以下:あり)さんは上山集落で生活し、活動をしている一人です。

今回はありさんに、上山の魅力について伺いました。

蟻正敏雅

 

タビスケ
過去にはアパレルのバイヤーをされていたり、東日本大震災の時はボランティアに向かわれていたそうですが、上山集落に住もうと思ったのは何年前ですか?

 

ありさん
ありさん
4年前です。前の仕事を辞め、自然のなかで暮らせる拠点を探しているときに上山集落に出会いました。

 

稲刈りの季節にお手伝いさせてもらいながら2泊3日滞在したのが最初です。

最初はただお金に極力捉われない生き方をしたくて、別に棚田にも農作業にもピンときていませんでした。

でも、ひたすら稲刈りした日の夜、先に移住していたメンバーを中心にバーベキューをしたのですが、そのとき「上山マインド」をすごく感じ、「ここで何かしたい」と思うようになりました。

 

タビスケ
上山マインドとはどんなものですか?

 

ありさん
ありさん

多様性を認め合うこと。上山集落のコンセプトは「面白いことは正しいこと」です。

みんな上山集落に魅力を感じて集まりはしていますが、一人一人考え方や暮らし方はバラバラ。

それぞれが思う「楽しいこと」を追及できる。そんな生き方ができる場所が上山集落です。

田舎の狭いコミュニティに生きながら、暮らしの多様性が認め合える場所はそうそうないと思います。

 

ありさん
ありさん
実際、上山集落には本当にたくさんの暮らし方があり、自分は地域おこし協力隊と自然体験の受け入れ、集落の商品デザインをしています。

 

ほかにも、医者として働く方やキャンプ場の運営をする方もいれば、竹をとって販売することで生計を立てている方、集落外にあるコンビニでバイトをしている人もいます。

どんな働き方も自由だよねと認め合える環境です。

棚田の作業が優先なので働く時間は限られてしまいますが、ここで生活したくてそういう暮らし方をとっている人もいます。

多様性を認め合う「上山マインド」ができた理由

ありさん

 

ありさん
ありさん
この「上山マインド」は、お米作りのスタイルが大きく影響していると思います。

春から秋の終わりまで手間暇かけてお米を作りをしていますが、基本は自分たちが食べる分のみで、販売して利益をあげようとか、米作りを生業にして生計をたてている人がいません。

今まで出会ってきた他のエリアの農家さんたちは自給自足とかオーガニック色が濃く、組織として米作りだけに力を入れているところが多い印象です。

上山集落ではビジネスとしてお米づくりに取り組んでいないことから、暮らし方も考え方もバラバラでもコミュニティとして成り立っているのだと思います。

 

ありさん
ありさん
暮らし方も考え方もバラバラですが、きちんと個性を認め合いつつもまとまりがある地域です。

 

棚田の上に家が建ち、水路が近くを通ってい、防災意識や土地をみんなで管理するという意識が強いです。

土地の管理は生活に直結します。

自分が住んでるところが明日何か起きるかもしれないという危機感を持ち生活しています。

 

ありさん
ありさん
自分も都市に住んでいた頃はニュースで見る知識レベルの危機感でしたが、上山集落に来て変わりました。

コミュニティの自治と結束力は死活問題だという意識が当たり前にあるから繋がっている。

暮らしの中にある防災意識が産む団結は強いと思います。

 

タビスケ
上山集落に遊びにきて自分が生きていることをすごく実感しました。やはり自然と生きる覚悟のようなものが滲み出ているからなのでしょうか。

 

ありさん
ありさん

そうだと思います。日々生きることが危険と隣り合わせである反面、生きている実感を持てる場所です。

上山集落に住むと、防災や危機管理も生き甲斐になります。

そうすることで土地に愛着が湧き、それが豊かさにもなってくるんです。

足りないものはたくさんあるが、困ることはない

 

タビスケ

上山集落は限界集落と呼ばれていた時期もありますが、現在なにか困っていることはありますか?

 

ありさん
ありさん
田舎のどの地域も人手不足に悩んでいると思います。

 

確かに人がいればいるだけできることも増えますが、上山集落では人手不足で困っているという認識がないのが面白いところ。

人手不足以外のことでもとくに困ることはなく、足りない物を探して悲壮感の中に生きるより、今ある状況を満足する充実さと、明日をよりよくしていくワクワク感の中で生きています。

この豊かな土地が、今日を豊かに生きる方を選ぶという考え方にさせているのだと思います。

移住者と地元住人との関係性について

ありさん上山

 

タビスケ
移住者と昔から住んでいる方との関係はどうですか?

 

ありさん
ありさん
村の古くから住んでいる方たちには、棚田を守れなかったことを重荷に思っている方もいます。

 

1985年ごろから棚田は荒れ始め、耕作放棄地が目立ち、住む人が減りました。そこから30年間ほど棚田の復興を完全に諦めていた時代が続いていたのです。

そこに棚田再生のための団体「英田上山棚田団」が14年前に結成。

棚田団と地域おこし協力隊の活動により、変えられないと思っていた耕作放棄地の景色がみるみる変わっていきました。

 

ありさん
ありさん
棚田保全活動のために訪問者が増え、家族で移住する人も。

 

まったく想像していない変化を遂げ、村の古くから住んでいる方たちは「まさか」という喜びがあったと思います。

棚田団の頑張りがあったからこそ、村の方たちから移住メンバーは信頼をもらえています。

お世話になるだけではなく、その分ちゃんと土地に返す、そんな当たり前のことを移住メンバーは大事にしています。

 

ありさん
ありさん
上山の過去も現在も未来も大事にして今を生きる。これも上山マインドかもしれません。

上山集落に向いている人の特徴とは

ありさん

 

タビスケ
上山集落はどんな人に合うと思いますか?

 

ありさん
ありさん

自由と責任がある人。ちゃんと自ら考えて全体を見ながらも自分らしい行動をとれると、上山集落と合うのではないかと思います。

実際に今いる移住メンバーは、みんなそれぞれの自分の個性を持ちつつ、交流を大事にしてコミュニティに生きる。そういう人たちがたくさんいる印象です。

一方で、自由でありながら責任もあるので、しっかり自分を持っていなきゃ生きにくいところであると思っています。

何かスキルがなくてはいけないという意味ではなくて、いろんな選択肢の中から自分で見つけていける人。

 

上山集落

上山集落はまだまだ成長できる「余白」がある場所なので、自分が出来る分野でコミュニティに参加できます。

自分が移住したときは、やりたいことがありませんでした。でも、ただ「この環境に身を置きたい」と思い自分が貢献できることを探した結果、今は以前仕事にしていたデザインで貢献しています。

個性を大事にする環境だからこそ、移住者も訪問者も個性的なメンバーが集まるのですね。それぞれの個性を尊重しあっているからこその信頼も感じました。

 

タビスケ
個性的なメンバーが他の個性的なメンバーを呼び、いいサイクルになっています。人の面白さも上山集落の魅力ですね。

 

おわりに

クラインガルテン

タビスケ
今回お話を伺った蟻正敏雅さんは、再生した棚田を活用した作物の栽培や山羊放牧、貸し農園の管理などをしながら、自然体験の受け入れをしています。

 

プログラムは1泊2日。魅力に溢れる上山地区で「モノのつながり」にふれる体験ができます。

洋裁ワークショップ・ヤギとの生活体験などを通して、日々のくらしを見つめ直し、夜はコテージに泊まって団欒の暖かさを感じられるワークショップです。

そのほかにも、田植えや稲刈りなどの棚田を体験することができるイベントなどを開催しています。

人々の思いが実現した、日本最大級の棚田の絶景を、体感しに行ってみてはいかがでしょうか。

はじめまして!岡山の上山地区を拠点に生活をしている、ありです🙌 十数年間アパレル業界に従事し、バイヤーや企画、販売などを…

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