本記事は、タイで日本人が遭っている詐欺・スリの手口を、外務省最新の『安全の手引き 令和8(2026)年版』をもとに10種類の防衛マニュアルへ再構成したものです。
タイ警察と大使館に集まる被害件数を、現地のシーンと防衛動作に翻訳しています。
- 1 バンコクの「治安が良い」を信じすぎると痛い目に遭う
- 2 抱きつきスリ:繁華街で子どもや女性が体に触れてくる手口
- 3 バッグ切りスリ:人混みで複数犯に取り囲まれる典型パターン
- 4 機内収納棚すり替え:100ドル札が1ドル札に変わる被害
- 5 ひったくり:バイク2人乗りがすれ違いざまに奪う
- 6 睡眠薬強盗:パブで知り合った相手の飲み物が一番危ない
- 7 見せ金詐欺:「日本円を見せて」で抜き取られる現金
- 8 寸借詐欺:パイロットを名乗る男の同情ストーリー
- 9 オーダーメード詐欺:王宮周辺のタクシー声かけ
- 10 ホテル・ゴルフ場の内部犯行とロッカー対策
- 11 あわせて読みたい:タイ安全シリーズ
- 12 タイ旅行で被害に遭わないための3つの心得|まとめ
バンコクの「治安が良い」を信じすぎると痛い目に遭う

2025年の1年間で、バンコクの大使館とチェンマイ総領事館に届いた邦人の犯罪被害報告は128件。
ざっくり3日に1件のペースで、誰かが大使館の窓口に駆け込んでいる計算になります。
これに詐欺被害22件、旅券の盗難・紛失353件を足すと、年間500件超。
大使館に届かない泣き寝入り分も含めれば、実数はさらに膨らみます(出典:タイ警察 2025年犯罪統計/在タイ日本国大使館発表)。
バンコクが特殊なのは、5つ星ホテルが並ぶ大通りから1本路地を入った瞬間に景色が反転する点。
地図の上ではきれいな観光地でも、現地の足で歩くと風俗街・歓楽街・スラムが層になって混ざっています。
外務省は「近づかない/一人歩きしない/楽観視しない」の3つを基本心構えとして挙げています。
ここから先は、その3心構えを日々の動作に落とし込むための10手口を、シーン別に順番に見ていきます。
抱きつきスリ:繁華街で子どもや女性が体に触れてくる手口

カオサン通りの夜、屋台の匂いに気を取られて立ち止まると、笑顔の女性と子どもが急に距離を詰めてくる。
肩や腕に手が触れて、目が合ったときには相手はすでに人混みに紛れている。
これが、外務省が警戒を呼びかけている抱きつきスリの典型的な入り口です。
体が触れた瞬間、被害者の意識は「人と接触した」という1点に集中するため、ポケットや腰袋への手の動きには気づけません。
防衛動作はシンプル。
財布は尻ポケットに入れない、貴重品はファスナー付き内ポケットか腰巻バッグに収納する。
そして、知らない人物が体に触れた瞬間に距離を取り、無言で財布の位置を確認します。
声を返さず半歩後ろに下がる、これが日本人の「断れない優しさ」を相手にスイッチさせない一番の動作になります。
バッグ切りスリ:人混みで複数犯に取り囲まれる典型パターン

このスリで先にやめたいNG行動が3つあります。
1つ目はバッグを背負って人混みを歩くこと。
背中側はチャックを開けられても気づけません。
2つ目は財布をズボンの後ろポケットに入れること。
BTS満員車両やウィークエンドマーケットでは、後ろからの抜き取りが文字通り無音で完了します。
3つ目は片手スマホで歩くこと。
もう片方の腰のバッグに自分の意識が向かなくなった瞬間が、相手の合図になっています。
正しい持ち方は、バッグを身体の前に抱え、財布は内側の隠しポケットへ。
取り出しやすい場所に貴重品を置かない、これが大原則になります。
満員のMRTで前後を挟まれたと感じた瞬間、手をバッグに添えて移動を1秒止める。
このわずかな動作が、相手の作業を中断させる効果を持ちます。
機内収納棚すり替え:100ドル札が1ドル札に変わる被害

離陸して30分。
機内食を食べ終わってトイレに立った数分のあいだに、頭上の収納棚で犯行は完了します。
外務省には、100米ドル札が1米ドル札にすり替えられた事例や、封筒入りの現金がそっくり消えた事例が継続して報告されています。
とくにアジア発着の経由便で頻発しており、タイ便も例外ではありません。
防衛策は1つに絞れます。
現金・パスポート・カードは頭上の収納棚に絶対に入れない。
貴重品ポーチは座席下の自分の足元か、肌身離さず携行。
トイレに立つときも、貴重品ポーチだけは持ち出すのが鉄則になります。
長距離フライトの眠気と疲労が、判断力を一番削るタイミング。
「眠くなったら貴重品を体に貼る」と決めておくと、機内で迷わず動けます。
ひったくり:バイク2人乗りがすれ違いざまに奪う

ひったくり対策で、最も効くのはバッグを建物側に持ち替えること。
これだけで、すれ違いざまに奪うバイク2人組の動線がほぼ封じられる構造。
逆に車道側にバッグを持って歩いていると、相手にとっては「向こうから差し出している」のと同じ意味です。
外務省には、深夜の徒歩帰宅中に背後から接近したバイクの後部座席の犯人に刃物で刺され、現金を奪われる事件まで残っているのが現実です。
歩く方向にも工夫の余地あり。
歩道が車道と同じ方向に走っているなら、できるだけ進行方向と逆向きに歩く。
後ろから接近するバイクが視界に入りやすくなり、奪われる前に距離を取れます。
トゥクトゥクや乗合タクシーに乗っているときも、車道側に荷物を置かないのが鉄則です。
万が一バイクの事故に遭ったときの動き方は、別記事にまとめています。
睡眠薬強盗:パブで知り合った相手の飲み物が一番危ない

朝、目を覚ますと自分が地方の県の路上で寝ている。
財布もスマホもなく、頭はまだ朦朧としていて、なぜここにいるのか思い出せない。
外務省には、こうした睡眠薬強盗の被害が継続的に届いています。
パブやクラブから連れ出した女性、あるいは親しげに声をかけてきた人物との飲食中に、グラスに薬を入れられるパターンが典型です。
怖いのは、被害者が完全に昏睡するわけではない点。
朦朧とした状態で「自分の意思で行動している」ように見えるため、犯人の指示でATMからキャッシングをさせられる事例まであります。
気づいたときには数十万円が引き出されており、被害者本人もその間の記憶があいまい。
これに対する鉄則は、たった1つに絞れます。
初対面の相手と飲食するときは、自分の飲み物から目を離さない。
トイレで席を立つときに、グラスをそのままにして戻る。
これがNG動作の代表例で、戻ったあとのドリンクは飲まない判断が命を守ります。
見せ金詐欺:「日本円を見せて」で抜き取られる現金

「日本人ですか。今度日本に行きます。円のレートを教えてください。その前に日本円を見せてください」
英語と日本語を混ぜながら、笑顔で近づいてくる外国人。
会話の流れで財布を開いた瞬間、相方が背後から現金を抜く。
これが、外務省が2025年に複数件記録している見せ金詐欺のリアルな進行表です。
防衛動作は2つ。
財布を人前で開かない、通貨を見せてほしいと言われたら立ち去る。
両替が必要なら、空港・銀行・看板を出した正規の両替商で完結させます。
路上で「親切」を装って近づいてくる相手に対しては、「No, sorry」と言って3歩離れる。
目を合わせず、立ち止まらず、会話に応じない。
これは旅の冷たさではなく、自分の財布と精神を守るための基本動作になります。
寸借詐欺:パイロットを名乗る男の同情ストーリー

なぜ日本人が標的になるのか。
答えは、断る心理的コストが他国の旅行者より高いからです。
「自称シンガポール人で航空会社のパイロット」「自称台湾人」を名乗る人物が、偽の名刺と同情ストーリーで近づいてくる。
ターゲットは人の良さそうな日本人観光客で、空港・ホテルロビー・カフェなど一見安全な場所が舞台になります。
鉄則はこの1つだけ。
初対面の相手から金銭の貸借相談を受けたら、その場を離れる。
本当に困っている人なら、現地の大使館・警察・タクシー会社に頼る選択肢が必ずあります。
「自分が貸さないと困る」という状況設定そのものが、寸借詐欺のシナリオだと割り切るのが正解。
連絡先交換だけで終わる話なら問題ありませんが、現金を即時で求められた瞬間に会話を打ち切ります。
オーダーメード詐欺:王宮周辺のタクシー声かけ

この詐欺は、4段階の流れで進みます。
段階1:王宮ワット・プラケオやワット・ポーの周辺で、タクシーやトゥクトゥクの運転手が「今日は休みだよ」と声をかける。
段階2:「特別な日だから観光客だけ入れる場所を案内する」と乗車を勧める。
段階3:宝石店やオーダーメードのスーツ店に連れて行かれる。
段階4:「日本で高く売れる宝石」「カシミア100%のスーツ」などの粗悪品を、相場の数倍で買わされる。
背景には、店からタクシー運転手にバックマージンが入る仕組みがあります。
運転手は観光客を連れてくるほど儲かるため、断られても粘る動機が強い。
防衛動作は3つ。
観光名所の正面以外で声をかけてくる運転手は無視する。
宝石・オーダースーツなど高額商品は、事前に評判を調べた店だけで購入する。
「日本で高く売れる」という売り文句は100%詐欺と覚えておきます。
王宮の開門時間は公式サイトに掲載されているので、出発前にスクリーンショットを保存しておくのが確実です。
ホテル・ゴルフ場の内部犯行とロッカー対策

場所別に対策を整理しておきましょう。
ホテル滞在中は、貴重品をセーフティボックスに預けるのが基本。
外務省には、害虫駆除に来た従業員が部屋に入った直後、クローゼットの財布から日本円が抜き取られた事例があります。
セーフティボックスがない安宿に泊まる場合は、貴重品ポーチで携帯するのが現実解になります。
ゴルフ場のロッカーはさらに厄介です。
シャワー中にロッカーを開けられ、財布のクレジットカードが他人名義のカードにすり替えられる手口があります。
現金は残されているため、被害者は帰国後の明細を見るまで気づけないのが最大の特徴。
共通の対策は3つ。
クレジットカードの不正利用通知メールをONにしておく。
滞在中に財布のカードを定期的に目視チェックする。
従業員を名乗る人物の訪問は、ドアを開ける前に必ずフロントに電話で確認する。
これだけで、被害発覚までの時間が一気に短くなり、カード会社へのストップも間に合います。
あわせて読みたい:タイ安全シリーズ

シリーズの他の記事と、タイ旅行の全体像ガイドはこちらからどうぞ。
タイの基本情報・グルメ・観光スポットまで網羅した完全ガイドはこちら。
タイ旅行で被害に遭わないための3つの心得|まとめ

10手口を見てきました。
被害を最小化するために押さえる心得は、結局3つに収束します。
1つ目は「危険な場所と時間に近づかない」。
深夜の単独歩行、人気のない裏道、繁華街の奥まったエリアは、それだけで犯罪リスクが跳ね上がる導火線になります。
2つ目は「貴重品を肌身離さない」。
財布は前ポケットかファスナー付き内ポケット、現金とカードは分散保管が原則。
3つ目は「親しげな声かけは即離脱」。
日本人観光客の「断れない優しさ」が、犯罪者にとって最大の隙となっています。
万が一、被害に遭ってしまった場合の動き方も決めておきます。
まず生命と身体の安全を最優先にし、抵抗しない姿勢を示す。
そのうえで犯人の特徴を記憶し、安全な場所に着いてからツーリストポリス 1155 か在タイ日本国大使館 02-207-8500 に通報します。
クレジットカードの停止連絡は、各社の海外フリーダイヤルに最短で。
タイは、正しく備えれば世界トップクラスに楽しい国。
今回紹介した10手口の引き出しを頭に入れ、安全で記憶に残るタイ旅行にしてください。
【出典・参考】
外務省『安全の手引き 令和8(2026)年版』(在タイ日本国大使館・在チェンマイ日本国総領事館作成)
本記事は上記資料をタビゼミ編集部が独自に要約・再構成した解説コンテンツであり、外務省が作成・監修したものではありません。最新の情報は必ず外務省 海外安全ホームページにてご確認ください。





